インタビュー

雨宮優 インタビュー

 専用のワイヤレスヘッドホンを装着し、DJやライブをオンタイムで共有する”無”音楽イベント、サイレントディスコ。サイレントフェス®︎の名称で、日本初となるサイレントディスコ事業を展開するのが、Ozone合同会社の代表である雨宮優だ。彼は体験作家として様々なフェスを主催するほか、DJ活動やバーの経営も手掛けている。
 多様な自己表現手段を持つ雨宮の、根底にある理念はいったいなんなのだろうか。また彼にとっての音楽についてなど、ARTICOLUMN独自の観点から彼の実態に迫った。

取材・文/山崎珠理


個々の自由が確立されたフェス

-サイレントフェス®︎を始めたきっかけは何でしょうか?

 もともとは教育の領域で活動していて、心理学や脳科学のワークショップを開くなどしていました。その中で問いかけや伝えたいことを広く届ける手段としてエンターテインメントに着目し、DJをやってみようと思ったんです。でも会場を探してみて、ライブハウスなど音を出せる場所を借りると高い費用がかかることが分かって。同じ理由で音楽を始められない人は僕以外にも多くいるのではと思い、2015年からサイレントフェス®︎というシステムを事業として始めました。海外だと、サイレントディスコという名称で欧州を中心に広がっているコンテンツなんですが、日本ではまだあまり馴染みがなく、ビジネスとして専門に扱っているところもなかったんです。

-雨宮さん自身は音楽の経験は?

 楽器の経験はありませんでしたが、ライブやフェスに行くことは好きで、音楽もよく聴いていました。サイレントフェス®︎は、教育的観点でやってきたことと音楽が好きなことが結びついた事業です。

-サイレントディスコに参加したことはあったのですか?

 サイレントディスコを体験したのは、自分で主催し公園で行ったフェスが初めてでした。その時にある種の納得感のようなものを得られて。自分が表現したい体験を、このコンテンツならしっかり表現できるなという実感があったんです。それがあったから、今も続けられていますね。

-雨宮さんが伝えたい体験とは、具体的にどのようなものでしょうか?

 フェスやライブだと、どうしても演者からオーディエンスという方向で画一的になってしまいがちです。みんなで声を揃えてコール&レスポンスをするとかはもちろん楽しいんだけど、それが同調圧力のように感じてしまって違和感を持つ人もきっといて。でもサイレントフェスは一人一人がヘッドフォンを別々につけているのでかなり自由が保証されています。みんな自立した中で楽しめるんです。音楽に合わせて踊ってもいいし、木の影に隠れて1人で聴いてもいい、ヘッドフォンを外して誰かと喋ってもいい。自分自身で考え、自由に世界をつくって生きられることが健全だと思うので、サイレントフェスはそれを表現できるなと感じています。

オンラインでフェスを開催

-先月の8日には、Zoomを使いオンライン上でサイレントフェス®︎を主催されていました。開催の経緯を教えてください。

 本当は通常のサイレントフェス®︎を開催する予定でしたが、新型コロナウイルスの影響でリアルの場に集まることができなくなってしまいました。代替の新しいアイディアとして出発した企画がオンラインでのサイレントフェス®︎です。2〜3週間前から企画を立案して、実際にオンライン環境でテストを行ってから開催しました。

-現実で行うフェスからオンラインに移行したことで、不安などはありましたか?

 本来フェスは、人と人がリアルの場で会って即興的に楽しむものなので、オンラインだとそれぞれが違う場所にいて、ネットで繋がっているとはいえフェス感が出るのか、ということは懸念としてありました。
 オンライン上でやってみて、思っていたよりもフェス感は出ていたなと感じます。Zoomだと参加者の顔が見えるので、それぞれの楽しんでいる様子を他の参加者にも共有できていました。もちろんリアルでのフェスには劣りますが、想定よりも雰囲気は出ていたなというのが実際の感想です。

-私も参加させていただき、それぞれの家の中にいながら同じものを見て、楽しむ表情を参加者同士で共有できるのは新鮮な体験でした。25日には2回目のオンラインフェスも開催していましたね。

 1回目で予想以上の人数のお客様に来ていただきました。その反響もあり、前回のフェス開催中に2回目の開催を決めました。
 実は前回の開催にあたり、オンラインでの開催をサイレントフェス®︎と呼んでいいのかという葛藤が僕の中でありました。でも実際にやってみると、それぞれが別の場所にいるので、よりサイレントフェス®︎的な要素は強くなっていたかなと思います。自分のいる環境をひとつの演出としてみんなに共有できるのも面白いと思いました。部屋にLEDの電飾を飾っていたりずっと月を映してくれていたり、ただ参加者というだけでなく全員で作り上げて楽しめている感じがよかったです。

-DJを始めるにあたって大変だったことはありますか?

 DJとしてのスキルは突き詰めようと思えばめちゃくちゃ難しくて、技術の深さを感じました。始める上でのネックとしては、機材を揃えることと音楽を広く知っていなければならないということはあると思います。僕は完全に独学で、DJを始めた頃はネット記事の情報を参考にしていました。

異ジャンル同士をつなげて問いの体系化へ

-雨宮さんはフェスの開催やDJ活動の他にも、会社やバーの経営などもやっています。幅広い活動の根底にある理念は何なのでしょうか?

 経営しているOzone合同会社の経営理念にも通じるところなんですが、「そうぞう機会の最大化」をミッションとして掲げています。「そうぞう」は「想像」と「創造」の2つの意味を持たせています。
 教育の領域で活動していると、「子どもたちに何を教えるか」から発展して「この世界で大切なものは何か」という問いにつながりがちです。自分もその問いにぶつかった時、世界や地球や人類は、種として持続可能であることがひとつのミッションだと考えました。これを達成するためのベースとなるものが、そうぞう力なんです。地球上にいる種族の中で人間だけが未来をそうぞうし、それを共有し信じられる能力があって、この力は絶やしちゃいけない。そうぞう力の文化のベースがあると、教育や医療や経済や政治やあらゆる社会の要素がよく育つと思います。いろんな物事のベースに、そうぞうは基礎力として必要だと考えています。

 こうした理念や、それに基づくそうぞう力を増殖できるシステムができないかという思いを成り立ちとして、様々な事業に取り組んでいます。ソーシャルフェス®︎という事業では、SDGsが終わった後の世界をフェスで表現するプロジェクトを行うなど、エンターテインメントを入り口にしてそうぞう力につなげられる問いの体系をつくっていくことで、「そうぞう機会の最大化」を実現していくことを核としています。

-様々なジャンルのまたいでの活動は、「そうぞう力」を育むきっかけとしてすべてつながっているんですね。

 エンターテインメントは敷居が低いけどそれ以上に広がらなかったり、教育は何かを教えることはできるけどベクトルを持ちすぎていたり、アートはベクトルがなく問いを膨らませられるけど敷居が高かったりします。それらの点同士をつなげて、エンターテインメントの敷居の低さから、アート的な不確実な問いに導いていくことの体系化が、今僕がやっていることです。

-最後に、今後の目標を教えてください。

 音楽業界は今、かなり先が見えない時代です。新型コロナウイルスの影響もあり、2年分ほどのプランが消えてしまっている企業がほとんどだと思います。僕自身が今考えているのは、オンラインサイレントフェスの先に何があるかということです。具体的には、現段階のオンラインフェスで共有できているのは視覚と聴覚だけであり、他の嗅覚や触覚をいかに共有していくかについて思索しています。
 今の時代における初期の課題は不安の解消だと思っていて、解決策として身体のヘルスケアは注目されている一方、メンタルヘルスに対するケアがまだ未発達だと感じます。その部分を補えるのが音楽やフェス、あるいは祭礼なんじゃないかというのが僕の仮説です。重要になってくるのは、いかにコンテンツに没入させて今の環境を忘れさせるかだと思います。そのためにはネット上の関わりに加えて、物流も絡めていく必要がある。オンラインでのフェスで音楽や映像を共有しつつ、アロマなど共通のグッズを届けることで嗅覚や触覚も共有するなど、オンラインと物流で五感を共有できる方法やコンテンツを模索していきたいと思っています。


【雨宮優】
体験作家/Ozone合同会社CEO/逃げBarオーナー
仮想の世界の物語を書き、現実の体験に仕立て上げる”体験作家”。 フェスティバルを”もう1つの社会”として設定し、SDGsが終わったあとの世界を想像し創造する「ソーシャルフェス®」プロジェクトをメインに、”無”音楽イベント「サイレントフェス®」や泥フェス「Mud Land Fest」aiが神になった世界「KaMiNG SINGULARITY」など全国各地でスペキュラティブデザインとしてのフェスティバルをプロデュースする。取り組みはフジテレビ、NHK、日経新聞など数多くのメディア特集され、大学やシンポジウムでも各所で講演を行い、エンターテイメント、アート、教育の領域を横断して活動する。

Twitter:@amemi_c5
HP:https://www.yuu-amemiya.com/

※サイレントフェス®及びソーシャルフェス®︎はOzone合同会社(Silent it)の登録商標です。

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