ライブレポート

米津玄師 2020 Event / STRAY SHEEP in FORTNITE ライブレポート

 8月7日、ゲーム「フォートナイト」で米津玄師によるバーチャルライブイベント「米津玄師 2020 Event / STRAY SHEEP in FORTNITE」が行われた。ここ最近多くの海外アーティストがフォートナイト内でのライブを行う中、日本人アーティストとしては初めての試みとなる。国内外問わず根強い人気を持つ米津玄師と世界に市場を持つゲームのコラボイベントの様子を追った。


文/山岸達希

日本人アーティスト初のバーチャルイベント

 今年4月からフォートナイトにゲームモードのひとつとして追加された、パーティーロイヤル。通常時はボートレースなどミニゲーム機能で遊ぶことができるモードで、不定期にスクリーンでの映像上映やライブ上映も行われる。フォートナイト公式Twitterは8月1日、米津玄師が日本人アーティストとして初めて、この機能を用いたライブを行うことを発表した。フォートナイトは2020年4月27日に行ったTravis Scottとのコラボを皮切りに、海外アーティストのライブイベントを度々開催してきた。同イベントにおける日本人アーティストの起用は今回の米津玄師が初めてで、若者を中心に絶大な人気を誇る米津とのコラボイベントが発表されると、SNS上ではフォートナイトユーザー以外からも大きな反響があった。フォートナイト日本語公式アカウントのツイートで添えられたキャッチコピーは、楽曲「感電」より引用された「たった一瞬の このきらめきを」。ゲームファンからも音楽ファンからも期待が高まるイベントとなった。

 イベント当日、パーティーロイヤルのライブ用メイン・ステージには巨大な人型キャラクターと、踏むとアバター自身が大きくジャンプするギミック「バウンサー」がいくつも設置されていた。色とりどりのライトの中、ゲームプレイヤーたちは自由に動き回ってライブの開幕を待つ。カウントダウンの後、羊のマスクを被った米津の登場とともに、新アルバム「STRAY SHEEP」収録の「迷える羊」が始まった。スクリーン上には米津玄師の歌う姿がオリジナル映像として映し出され、曲冒頭やサビにはプレイヤーたちが大きく跳ねる演出で盛り上がりを見せた。ライトアップは全体的に青や紫などの寒色系に統一され、曲の醸し出す哀愁を引き立たせる。曲終わりにはスクリーンバックで花火が打ちあがった。2曲目はTBS系ドラマの主題歌としても話題の「感電」。こちらもサビに全員が跳びはねる演出と、バーチャルならではの星が降る演出が曲に彩りを与える。続いて披露された「砂の惑星」では米津が砂世界を巡り、瓦礫に埋もれた廃墟と現代都市、さらにはステージを行き来するバーチャル演出でプレイヤーを惹き込んだ。

 3曲が終わり、米津から現在の状況やライブに対する思いが伝えられた。「未曾有な出来事を前に、私のような音楽家にできることはそう多くありません。変わっていく時代の中で、より新しく、それでいて美しい一瞬をみんなとともに過ごしていたい。そういう思いを抱きながら今ここに立っています」。中止せざるを得なくなったライブツアーの代替として開催された今回のバーチャルイベントは、観客に音楽への新しい触れ方と感動を与えてくれた。

 4曲目は「パプリカ」。これまでの激しさや退廃的な印象とは一変した明るい花畑の中で、舞い散る花弁と楽しげに体を弾ませる米津の姿からは、ライブができる喜びが感じられた。イベントの最後を飾ったのは「lemon」。廃墟に佇む米津の歌と暗いゲーム背景が切なさを際立たせる。バーチャルな空間だからこその光の演出を存分に使いこんだステージとなった。

バーチャルイベントの課題

 今回のイベントは最新アルバムの収録曲から以前の有名曲までもが幅広く披露され、それぞれの曲で世界観に合わせたオリジナルの映像とライブステージが展開された。こうしたゲーム内特有の演出は、生のライブイベントやライブビューイングとは異なる楽しみ方を提供している。MCにもあった通り、昨今の未曽有の事態にあってアーティストを始めとする音楽関係者は今まで通りの活動とは異なった、別の道を模索することを迫られている。今回のイベントは音楽家の楽しませ方、聴く側の楽しみ方の新たな形を提示し、実際のライブへとつなげるひとつの音楽イベントとしての可能性を持つだろう。

 一方、今後フォートナイトやアバターを用いてのオンラインでのバーチャル音楽イベントを確立させるためには、何点か改善の余地も見受けられる。以前行われたTravis Scottによるバーチャルライブイベントは、通常フィールドが大きく様変わりする派手なものだった。仮想空間ならではの演出が多く、プレイヤーは現実世界ではありえないアトラクション性を持ったライブを楽しむことができた。Travisのイベント後にゲームモード「パーティーロイヤル」が追加されると、音楽イベントは事前に作られた映像をスクリーンに流し周囲に演出を施すだけの形態に移行し、5月に行われたDillon Francisらのライブイベント以降、今回の米津とのコラボまでこの形態で行われている。フィールド全体の演出に比べ、映像とスクリーン周辺のみの演出形式は運営側とアーティスト側の負担が軽いため、コンスタントなイベント開催が可能となるだろう。しかし演出のスケールダウンによって、フォートナイトの音楽イベントはライブビューイングに近いものとなってしまった。バーチャルだからこその盛り上がりとエンターテインメントの企画・準備・発信の効率、この2つのバランスをいかに取るかがオンライン音楽イベントの今後の課題となる。

 また、バーチャルイベントにおける視覚・聴覚のみの知覚には物足りなさがある。自宅にいながらライブを楽しめる手軽さはメリットだが、やはり実際のライブにおける五感をすべて活用する音楽体験には遠く及ばない。今回のフォートナイトと米津のコラボイベントにより、日本の音楽ファンにバーチャルイベントという新しい音楽体験の方法が導かれ、この媒体はこれからめざましい進化を遂げていくだろう。しかし同時に従来のライブ体験ができる日常が一刻も早く戻ってくることも願ってやまない。

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